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à la lettre

ラカン派精神分析・精神病理学に関するいろいろ

フロイト「エディプス・コンプレックスの崩壊」まとめ

S.フロイト, エディプス・コンプレックスの崩壊, 『エロス論集』(ちくま学芸文庫), pp.297-307


エディプス・コンプレックスはどのようにして崩壊するか?

この問いに答えるには二つの理論がある。


(1)苦痛を伴う失望が突然のように主体を襲い、崩壊する

 コンプレックスの内容と対立する苦痛な経験は不可避である
 幼女の場合:自分が父親のお気に入りだと信じていたのに、父親から厳しい折檻をうける
 少年の場合:母親は自分のものだと思っていたのに、母親の愛情と心配りが自分ではなく、新たに生まれてきた赤子にむけられるという経験をする
 エディプス・コンプレックスは、それが実現されないことによって、もともと不可能なものであったことが認識され、崩壊する。
 =<不可能なものを禁止する>


(2)消滅すべき時期が来ると、自然に崩壊する

 遺伝によって定められた現象であり、あらかじめ定められた次の発達段階が到来するために消滅する

この二つをお互いに調和させることは(個体発生と系統発生のように)可能である。

ファルス期

子供の性的な発展は、早い時期で性器(ペニス)が中心的な役割を果たす段階まで進展する。
女性の性器はまだ発見されていない。
ファルス期は、エディプス・コンプレックスの段階であり、これが消滅して潜在期を迎える。

ファルス期の消滅はなぜ起こるか

ファルス期の消滅は、子供の自慰に対する「母親の」禁止が繰り返されて起こる。
禁止するのは母親であるが、母親は父親や医者などの権威者に「叱ってもらう」と断言しながら脅す(cf.Lacan, S5-Ja251/Fr172)。
自慰だけでなく、夜尿もそうである。なぜなら、夜尿は成人の夢精に相当すると考えられているから。

少年はこの脅しを信じないが、乳房を奪われる経験、腸の内容物を毎日排泄するように強いられることによって、ペニスを失うことに対する心の準備ができる。
そこに、女性の性器を見ることによって、ペニスがないことを認めざるをえなくなり、自分がペニスを失う可能性を理解するようになる。これが<事後的に>脅しの効果を発揮せしめる。


cf.ラカンはS5-Jb148/Fr348(Jbは邦訳下巻、FrはSeuil版を示す)で、ハンスの症例とアンドレ・ジッドを参照しながら、去勢は「自慰の禁止」によって起こるのではない、最初の禁止には何の効果もなく、(事後的に)<他者>の欲望がシニフィアンの斜線[barre]によって印をつけられるこの場所で、去勢コンプレックスが導入される、としている。

ファルス期の子供の性生活

この時期の子供の性生活は自慰だけではない。
自慰は、エディプス・コンプレックスの一部である性的な興奮を、性器において放出する行為にすぎない。

性的な満足を得るための二つの方法

(1)能動的方法(=男性的方法)

 子供が自分を父親と同一視し、父親の立場で母親と関係を結ぼうとする。
 このため、父親が邪魔になる。

(2)受動的方法(=女性的方法)

 子供は自分を母親の場所において、父親に愛されることを願う。
 このため、母親が邪魔になる。

両方の方法どちらにおいても、「満足できる性愛的な関係とは何か」というものに関して、子供はごくぼんやりと想像し、それはペニスに関わることだと考える。

性的な満足の放棄、ペニスを失うこと

去勢の可能性を受け入れると、エディプス・コンプレックスに基づいた二つの性的な満足の享受――つまり、能動的方法と受動的方法――の可能性は、両方とも失われる。
また、ペニスはいずれにしても失われる。

  1. 男性的方法では、父親からの処罰によってペニスを失う
  2. 女性的方法では、そもそもペニスはもてない

<ラカンの「金か命か」の源流?>

エディプス・コンプレックスからナルシシズムへ

ペニスに対するナルシシズム的な関心と、両親という対象に対するリビドー備給のあいだに葛藤が生じる。
通常はナルシシズム的な関心が勝利をおさめ、エディプス・コンプレックスは抑圧される。

少女の場合はどうか?

女性にもファルス体制があり、去勢コンプレックスが存在する。

少女の去勢コンプレックスにおいては、少女は自分にペニスがないという事実を性別の特徴としては理解せず、以前は同じように大きなものをもっていたが、去勢されてそれを失ったのだと自分に説明する。また、成人女性には男性のような完全な性器がそなわっていると想定する。

このように、少年が去勢が実行される可能性を恐れるのに対して、少女はすでに去勢が実行されたことを事実として受け入れるという本質的な違いがある。少女のエディプス・コンプレックスは少年のそれよりはるかに単純であり、自分を母親の位置におき、父親に対して女性的な姿勢を示すという範囲を超えない。

少女はペニスをあきらめ、いわば象徴の方程式にしたがって、ペニスへの願望から赤子への願望に移行する(例えば、父親から贈り物として赤子をもらいたい、父親のために赤子を産みたい等)=<ペニス羨望の換喩>

しかし、このような願望が満たされることはないため、エディプス・コンプレックスはゆっくりと消滅していくような印象をうけるが、ペニス羨望は無意識のうちにしっかりと根を下ろす。