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à la lettre

ラカン派精神分析・精神病理学に関するいろいろ

トマス・J・シェフ『狂気の烙印――精神病の社会学』#4

Thomas J. Scheff : Being Mentally Ill: A Sociological Theory(1966)
ASIN:B000J8I85M

第3章 どのようにして「患者」は作りだされるのか(後)

否定とレッテル貼り

残基的ルール違反に対する通常の反作用は否定である。
しかし、必ずしも常に否定であるとは限らない。
違反の範囲と程度を誇張し、また時には歪曲する反作用も存在する。(p.81)
 ⇒ このような誇張のパターンを「レッテル貼り」と呼ぶ

「私は〔精神病者の〕症例記録のなかに集められている情報の大部分は全く本当のことだと思う。とはいっても、ほとんどいかなる人物の生活過程も、その記録が正当化している拘束の根拠を提供するに十分なほどの〔精神病という〕烙印を与える事実を生み出しうるというのもまた事実である」
(Goffman, "The Moral Career of the Mental Patient")

レッテル貼りの過程は、残基的逸脱の大部分の経歴における決定的な条件である。
∵狂気についての伝統的なステレオタイプがその逸脱者に対して反応している人びとと同時に逸脱者自身の両方にとって行動のための指針としてのイメージとなる。つまり、周囲の人びとは斉一的に反応し、逸脱者は周囲の期待に同調し、精神病として分類される他の逸脱者たちの行動に似てくる。

逸脱者の役割と受容

精神障害とは、一つの社会的役割(p.84)
精神障害が生じるもととなる多様なルール違反が斉一的で安定したものにされるのは狂気の人びとの地位を維持する社会的過程を通してである。残基的逸脱の安定化と斉一化は、その逸脱者が彼自身の行動を組織する枠組みとして、狂気の役割を受け入れるときに完了する。

<命題6>

「レッテルを貼られた逸脱者たちはステレオタイプ化された逸脱者の役割を演じることによって報酬を与えられるかも知れない。通常「洞察」を示す患者たちは精神科医その他の職員に報酬を与えられる。すなわち、自分の過去と現在の行動のなかに「自分の病気」の証拠をどうにかして発見しおおせ、医学と社会の診断を確証した患者たちは利益を受けるのである。このような行動のパターンはバリントが「使徒的機能」(apostlic function)と呼んでいるもっと一般的なパターンの特殊な事例である。このなかで医師やその他の人びとはそれと知らずに、医師の方で患者が持っていると思っている病気の症状を患者が示すようになる原因となっているのだ。使徒的機能は患者と医師のあいだでの患者の病気の性質を何であると決定すべきかをめぐる駆引きという文脈のなかで生じる」(p.85)

cf.バリントの「使徒的機能」
医師は患者が病気のときどのように行動すべきかという曖昧ではあるが確固たる信念を持っており、それを患者に対して明らかにしてやる。なおかつ医師は、自分の患者たちのなかにいるすべての無知で不信心な者どもを自分の信仰へと回心させる神聖な義務を持っていると思う。

<命題7>

「レッテルを貼られた逸脱者たちは本来の役割への復帰をくわだてると罰せられる。いったんレッテルが公けにあてはめられると作用するようになる第二の過程は非逸脱者の役割への移行の系統的な阻止である。こうして元精神病患者は地域共同体に復帰するように激励されてはいるけれども、自分自身が昔の地位へ復帰しようとすると差別されており、また職業、結婚、社交その他の領域で新しい地位を見出そうと試みても差別されていることに気づくのがふつうである」(pp.87-81)

例:元精神病患者の就職の難しさ

<命題8>

「残基的ルール違反者が公けにレッテルを貼られる時に生じる危機のなかでは逸脱者は被暗示性が高くなり、申しだされた狂気の役割を唯一の代替策として受け入れるかもしれない ……残基的ルール違反者が精神障害の枠組みのなかで自分の行動を組織化し、彼の組織化が他の人びと、特に医師たちのような威信のある他者たちによって妥当化される時、彼は「ひっかけられ」て慢性的な逸脱の経歴をたどって行くであろう」(pp.88-89)

例:プエルトリコにおける精神分裂病研究(Rogler, L.H. and Hollingshead, A.B. Trapped:Families and Schizophrenia)

逸脱者には二つの行動の種類がある

1、同調行動
 命題6のように、「レッテルを貼られた逸脱者たちがステレオタイプ化された逸脱者の役割を演じること」
2、自己統制の過程の崩壊
 これは、逸脱者は自己統制ができないという意味ではない。

「自分自身の行為を統制する能力を欠いている人間として自分自身のイメージを獲得した人物にとって自己統制の過程はストレスのもとでは崩壊しがちである。そのような人物は「正常な」自己概念を有する人ならば耐えられるような状況のもとで「崩壊点」に達してしまったと感じるかもしれない。これはストレスによって説明しうる以上の大きな自己統制の欠如は、文化がそれに対して自己統制の欠如を強調するイメージを伝えている役割のなかに現われる傾向があるという意味である。アメリカの社会ではそのようなイメージは、非常に若い人びと、年とった人びと、大酒飲み、麻薬中毒者、とばく師、精神病者の役割について伝えられている」(p.93)

<命題9>

「残基的ルール違反者たちのあいだではレッテル貼りは残基的逸脱者の経歴の単一のもっとも重要な原因である」(p.93)

また、残基的ルール違反によって、精神病のレッテルを貼られるのではなく、地位が向上する人もいる。
例:サムエル記第Ⅰの3のサムエル

レッテル貼りの条件依存性
・ルール違反……程度と量、目に付きやすさ
・そのルールを破る人物……ルール違反者の権力、その人物と社会統制の当局者とのあいだの社会的距離
・ルール違反が生じる地域共同体……共同体の寛大さのレベル、地域社会の文化における代替的な非逸脱的役割の利用可能性

これらの条件依存性が力動的なシステム、つまりルール違反者の行動と社会的反作用とのあいだの相互的で蓄積的な相互関係の一部となって因果的になる。


フロー・チャート(スキャン)


システム全体は、「逸脱増幅システム」「正のフィードバック」を形成しており、低確率であるはずの事象が固定化される。このようなシステムにおいては同じような逸脱の諸条件が同じような効果を生じさせるといったような単純な因果法則が作用しているのではなく、システムの作用によって固定・増幅される。