多文化間精神医学会の雑誌『こころと文化』第13巻2号の特集に寄稿した拙論を、本サイトに公開します。
掲載版から少しだけ修正を加えていますので、もし引用などされる場合はご注意ください。
なお、ヘイトスピーチやレイシズムに関するより詳細な精神分析的理解に関しては、『atプラス』21号に書いています。また、その他の論点については、『図書新聞』3175号や『図書新聞』3216号にも書いています。こちらもぜひ御覧ください。
レイシズムの中の居心地悪さ――「行動する保守」にみられる享楽の病理
1. 現代日本のレイシズム
2013年の新語・流行語大賞のトップ10に「ヘイトスピーチ」という言葉が踊った。新聞やテレビをはじめとした各種マスコミでもヘイトスピーチに関する報道が行われ、この言葉は一気に知名度をあげた。ヘイトスピーチとは、直訳すれば「憎悪表現」となるが、その本質は差別扇動である。つまり、特定の民族や人種、あるいは障害者やホームレスなどのマイノリティ(社会的少数者)に対する差別を煽り、差別を助長するような発言のことをヘイトスピーチというのである。
日本はいま、ヘイトスピーチの春である。なかでも、2007年の第一次安倍政権下で誕生した「在日特権を許さない市民の会」(通称、在特会)や、彼らと密接な関係をもつ団体によるヘイトスピーチ・デモの頻繁な開催が目立っている。彼らは「行動する保守」を自称し、数年前から街頭での排外主義的なデモ活動を行ってきた。しかし、目下の第二次安倍政権下における緊迫した東アジア情勢を背景として、彼らの「嫌韓」「嫌中」感情はますます高まり、2013年に入ると、コリアンタウンである東京・新大久保で頻繁にヘイトスピーチ・デモが開催されるようになった。