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à la lettre

ラカン派精神分析・精神病理学に関するいろいろ

「症状精神病のメタサイコロジーにむけて」抄録

 来たる10月14日に,「第34回日本精神病理・精神療法学会」にて,ラカンに関連する演題を発表させていただく予定です.以下に抄録を公開します.

第34回日本精神病理・精神療法学会 パネルディスカッションIII-P-5-2(10月14日午前)
症状精神病のメタサイコロジーにむけて


(抄録) 「外因反応型」に関するBonhöfferの一連の臨床観察は,症状精神病において症状がどのように(How)起こるのかを精緻に記述している.一方,彼の理論には症状精神病の症状がどうして(Why)生じるのかという視点が不十分であるように思われる.彼は症状精神病の原因を身体の基礎疾患から二次的に生じる「代謝障害」に見定め,それを「病原的仲介体(ätiologische Zwischenglieder)」なる物質の作用に還元しているが,結局のところそれはブラックボックスなのである.私たちは症状精神病の症状形成をどのように捉えればよいのだろうか.
 また,症状精神病における幻覚妄想は,統合失調症の幻覚妄想とどのように異なるのだろうか.両者の違いは通常は意識障害の有無によって示されるが,とりわけ急性精神病の臨床においてその鑑別が難しい症例は数多い.私たちは本発表で,とりわけ症状精神病の幻覚妄想の症状形成に焦点をあて,それが統合失調症の病理とどのように異なるのかという問題を考えてみたい.
 まず,Bonhöffer自身が外因反応型を構想する際にモデルとした「アルコール精神病」の問題に目を向けてみることが,この問題に接近するための糸口となるように思われる.
 Lasègueは「アルコール精神病は,精神病ではなく夢である」(1852)において,アルコール精神病を本来の精神病(délire:妄想病)とは一線を画する「夢の病理」として捉えることを提唱している.しかし一方で,Moreau de Tours(1845)はすべての精神病を夢に由来する病理として捉えている.つまり,彼にとっては精神病は内因性/外因性の別を問わず,すべて「睡眠なしの夢(rêve sans sommeil)」なのである.彼の考えはその後Eyによって発展的に継承され,夢は「精神病理学における原基的事実(fait primordial)」であるとされる.Eyは,内因性精神病と外因性精神病の区別を撤廃し,急性精神病を「意識の病理」と一括して説明する.つまり,フランス精神医学には,外因性精神病を夢の病理として説明し,本来の精神病(統合失調症)とは一線を画すものとみる見解(Lasègue)がある一方で,内因性/外因性の区別なしに,すべての精神病を夢の病理に還元する見解(Moreau de Tours, Ey)もあるといえる.
 つぎに,症状形成と夢の関係についてさらに追求するために,「夢の科学(La science des rêves)」を自認する精神分析の意見を聞いてみよう.
 Tausk(1915)もまた,アルコール中毒患者の作業せん妄を夢と類比して解明しようとした.彼はまず,不安感のうちにさまざまな作業を次々と繰り返す夢を分析し,この夢が性的不能の恐れから発生したものであるとする.そして,アルコールせん妄患者の幻覚は,このような性的不能に関する夢と同じものであると結論づける.つまり,アルコールせん妄患者は,アルコールのために性的不能に陥り,そのために作業の夢を形成するが,この夢が睡眠下ではなく意識障害下で体験されてしまうために幻覚や作業せん妄が生じるというのである.なお,Tauskは内因性精神病をこの作業せん妄論と同じ水準で理解しようとしており,Moreau de Tours やEyの見解に重ねられる.
 一方,「夢の病理」を徹底的に吟味し,症状精神病と統合失調症を区別しようとしたのがFreud(1915,1917)である.彼はメタサイコロジーの観点からアメンチア(症状精神病含む)と統合失調症を比較し,アメンチアでは語表象が対象表象へと退行(局所論的退行)し,幻視をはじめとした夢の病理が前景化するとされる.一方,統合失調症では局所論的退行が障害されており,語表象は対象表象へと退行できず,語表象そのものが前景化することから,種々の言語性病理が出現するとされる.つまり,アメンチアの幻覚は夢に類似した「退行モデル」で理解でき,統合失調症の幻覚は「言語モデル」で理解できるというのである.
 付言するなら,このメタサイコロジー的理解は,症状精神病の理解だけにとどまるものではない.Malevalは,ヒステリー性精神病とアメンチアの妄想を夢幻様妄想(délire onirique)として「夢」の次元において捉え,統合失調症の妄想とは異なるものと考える.また,本邦の小出は,非定型精神病は,不眠が続くことによって正常な夢作業がなされず,覚醒下で「前意識の湧出」がみられることによって起こると考える.このような理論を参照することによって,症状精神病,ヒステリー性精神病,非定型精神病といった非統合失調症性の幻覚妄想についての精神病理学的理解を深めることができるかもしれない.

学会の詳細は以下のURLからお願い致します.
https://sites.google.com/site/jspp34in2011/